あさひ製菓「月でひろった卵」のお話

まんまるでふわっふわ、とろ〜りクリームの銘菓。
やわらかいカステラ生地と、とろりとしたなめらかカスタードクリームの相性が抜群の「月でひろった卵」は、山口県民なら誰もが知っている銘菓。ふんわり食感とやさしい味わいが魅力で、小さな子どもからお年寄りまで幅広い世代に人気です。また、商品名の通り、お月さまを連想させるまんまるフォルムも愛される理由の一つ。お土産に、自宅用にと多くの人に親しまれています。

生み出したのは柳井市の老舗お菓子メーカー。
「月でひろった卵」を開発したのは、柳井市にある「あさひ製菓」。「果子乃季」や「CHOUCHOU(シュシュ)」などのブランドを展開する老舗菓子メーカーで、安心・安全はもちろんのこと、「おいしいお菓子」「今、必要とされているお菓子」にこだわり、多彩な和洋菓子を企画・開発・製造・販売。山口県内に46の実店舗を構えるほかECサイトもあり、全国へ、世界へとその味を届けています。

創業は大正6年。前身は三兄弟が始めた「チトセ屋」。
「あさひ製菓」の前身は大正6年に創業した一軒の和菓子店「チトセ屋」。柳井市千歳で開いたため、店名は地名の「チトセ」を冠したのだとか。「創業者は坪野家の三兄弟。正男、私の祖父の静守、一夫の3人です。飴玉やせんべい、最中の皮などの製造と、大手のお菓子屋さんの取次店、いわゆる問屋業で商売を始めたようです」と話してくれたのは、代表取締役社長で3代目の坪野恒幸さん。坪野さんは「あさひ製菓」のこれまでを語ってくれました。

戦後、「あさひ会」を経て、昭和26年に「あさひ製菓」へ。
「戦争が始まると、祖父は家族を連れて中国の天津に渡り、日本軍の菓子工場の工場長に。戦争が終わると日本へ戻り、柳井に家を借りて菓子店を始めましたが、砂糖が統制品でなかなか手に入らず、2階で物々交換の市も開いていたそうです。毎月0(ゼロ)の付く日に市を開いたことから社名は『あさひ会』に。0(ゼロ)という数字の丸い形から旭を連想したそうです」と坪野さん。「あさひ会」の設立は昭和24年。翌年に「あさひ商会」に、翌々年に「あさひ製菓株式会社」へと商号を変更し、それからは坪野さんの祖父にあたる静守さんが一人で会社を続けていったのだとか。

会社を大きく成長させた初めてのヒット商品「鳩子の海」。
「あさひ製菓」になってからもしばらくは問屋業を続けていましたが、ある商品が大ヒットしたことで、製造・販売に専念することに。「2代目の父の時代だった昭和48年、翌年4月から山口県の上関が舞台のドラマ『鳩子の海』が放送されると聞き、ドラマにちなんだ土産菓子を作ることになりました。開発期間はドラマが始まるまでの半年間くらいだったと記憶しています。当社にとって土産菓子を作るのは初めてだったので、一番苦労したのは日持ちの部分。当時は脱酸素剤などありませんでしたから、まさに試行錯誤です。ようやく完成したのがアルミホイルに包んで焼く菓子『鳩子の海』でした。この『鳩子の海』は当社初めてのヒット商品となり、気がつけば製造だけで手一杯に。それで問屋業はやめたんですね」と坪野さん。

「鳩子の海」はしっとりした皮とまろやかな甘みのミルク餡が特徴の焼きまんじゅう。ついつい手が伸びる、素朴でどこか懐かしい味わいです。ドラマ放送後も売れ続け、発売から50年以上経った現在も「あさひ製菓」の看板商品の一つとして高い人気を誇ります。「アルミホイルに包んで焼く製法は当時非常に珍しく、包む機械はもちろんありません。業者に開発を依頼したのですが断られてしまい、なんと、父が既存の機械を改造して作ってしまったんです。脱酸素剤の登場で今はアルミホイルに包んでいませんが、父が機械製造に情熱を注いでいた姿は今も忘れられません」。ちなみに、2代目は「鳩子の海」という商品名をつけるため、商標を持っている方の元へ何度も何度も足を運んだのだとか。足を運ぶうちに少しずつ打ち解け、実は商標をお持ちの方も、同行していた弁理士も、2代目もそろってみんな同じ大学に通っていたことが判明。最終的には快く使用を許可してもらえたそうです。

超人気菓子誕生のきっかけは、マシンを動かすための苦肉の策。
いろいろな和洋菓子を製造する中、「やっぱり山口ういろうは必要だろう」とういろう用の大きなトンネル蒸し器を導入した「あさひ製菓」。しかし、「毎日稼働させると作りすぎてしまう問題」が浮上します。「だけど機械を遊ばせているのはもったいない。そこで、トンネル蒸し器を使って他のお菓子ができないかと思いついたんです。その結果、誕生したのが『月でひろった卵』。発売当初から現在に至るまで、当社のナンバーワン商品です」。そう、なんとあの超人気菓子「月でひろった卵」は、トンネル蒸し器を動かすために開発された商品だったのです。

全日空の機内お茶菓子に採用され、一気に人気商品に。
以前より「あさひ製菓」では全日空の機内お茶菓子を手がけていましたが、「月でひろった卵」のあまりの出来の良さに、新たなお茶菓子として即提案。すると二つ返事で採用が決まりました。「まだ商品名が決まっておらず、全日空の大きな会議室で、『月の卵』にするか『月でひろった卵』にするかを協議しました。男性陣はみんな『“月でひろった卵”なんて名前はダメだ!』と。でも、女性の意見も聞きたいとCAさんに尋ねたところ、何百人もいるCAさんが全員『月でひろった卵』を選んだんです」。その後、「月でひろった卵」が機内お茶菓子としてデビューすると、「あさひ製菓」には問い合わせの電話が殺到。瞬く間にスターダムへとのし上がったのでした。現在、「月でひろった卵」は常時10種類の味を展開。いちごやスイカなど季節限定商品もあるのでお見逃しなく。余談ですが、世間には「月でひろった卵」とよく似た人気菓子がありますが、「あちらは焼き菓子、うちは蒸し菓子」と坪野さん。実は製法が全く異なるのだとか。製法の違いを知った上で食べ比べてみると、新たな発見があるかもしれません。

お取り寄せスイーツとして大人気!「魅惑のザッハトルテ」
「月でひろった卵」、「鳩子の海」と並ぶ「あさひ製菓」の人気菓子と言えば「魅惑のザッハトルテ」。こちらはインターネット販売で大ブレイクした洋菓子です。「まだインターネットが普及し始めたばかりの2000年頃、父に『ネット販売を始めろ!』と言われ、私が自分でホームページを作りました。でも、やっぱり売れないんですよ…。なんたってユーザー自体がまだまだ少ない時代ですから。その窮地を救ったのが、この『魅惑のザッハトルテ』です。本場のものと比べて、甘さは控えめ、食感はやわらかめと、日本人好みの味にこだわっており、テレビ番組でも取り上げていただきました。今もたくさんの方にお求めいただき、お取り寄せのザッハトルテでは当社の商品がナンバーワンだと思っています」。

水に卵に…。安全・安心な素材へのこだわり。
「あさひ製菓」が菓子作りに使う素材は全てこだわりのもの。特に水に関しては、おいしい地下水「琴名水」を使っています。「工場のある柳井市中馬皿は水道が通っていないため、地下から湧き出る水を使っています。この地下水、最初は『食品製造に使えるきれいな水』程度の認識でしたが、次第に従業員の間で『水がおいしい』とささやかれるように。だんだんとペットボトルやポリタンクに汲んで持って帰る人も出てきました。そこで改めて水質を調査してみると、厚生労働省の『おいしい水』の要件をほぼ満たしていることが判明。私たちはその水を柳井市にある『琴石山』から『琴』の一文字をいただき、『琴名水』と名付けました。週末になると500人近くの方が工場を訪れ、水を汲んで帰られます。中には広島県から足を運ばれる方もいるんですよ。私たちの菓子作りはこの美しい水に支えられています」。「あさひ製菓」は、菓子作りの要となる卵をはじめ、牛乳やフルーツも県産、国産のものを主に使っています。

山口の人に愛され、山口で育てられた
創業からおよそ110年、柳井市の小さな和菓子店から始まった「あさひ製菓」は、今や山口県を代表する菓子メーカーの一つに成長しました。そんな「あさひ製菓」が掲げるのは、「私たちは、山口のしあわせの真ん中をつくっています」というキャッチフレーズ。「山口に感謝し、山口に密着し、山口の誇りとなれるお菓子屋であり続けることが私たちの使命。これからもお菓子好きの社員が一丸となって、おいしいお菓子をみなさんにお届けします」と坪野さん。「あさひ製菓」の根底には、山口県の人々の暮らしのいろんな場面に必ず「あさひ製菓」の菓子があってほしいという思いがあるのです。

アレルギー対応の菓子を開発し、あらゆる人を笑顔に。
毎日100種類以上の菓子を製造する「あさひ製菓」ですが、今後はアレルギー対応の菓子作りにも力を入れていきたいそう。「直営店では取り扱っていませんが、インターネット販売では一部アレルギー対応のお菓子を扱っています。今、アレルギーの子どもたちってすごく多いんです。家族でバースデーケーキを食べたいけれど、兄弟の一人だけ食べられないとか、兄弟がアレルギーだからみんなで食べるホールケーキは諦めるとか、そんなことがいろんな家庭で起こっています。だからアレルゲンの入っていないケーキ、しかもおいしいケーキを作って届けたいんですよね」。

新作菓子に期待大!時代の味を追い求める「あさひ製菓」。
「まずは『月でひろった卵』をぜひお召し上がりください」と坪野さん。「月でひろった卵」は、「あさひ製菓」が目指す、「みんなを笑顔に、毎日を特別にするお菓子」のいわば代表作。全く変わらないようであって、実はその時々の時代が求める味に合わせ、少しずつ進化させているのだとか。そんな細やかな気配りができるのも、「あさひ製菓」の大きな強みです。「『鳩子の海』もミルク餡にオレンジピールを練り込んだり、練り込まなかったりと、常に“時代の味”を意識しています。試行錯誤する理由はただ自分たちが本当においしいと思うお菓子を届けたいから。これからも新しいお菓子をどんどん世に送り出していきますので、ぜひご期待ください」。お菓子で人を笑顔にするために、「あさひ製菓」の挑戦はまだまだ続きます。