おいでませ山口館

特集 やまぐち語り

井上商店「しそわかめ」のお話

今や食卓の当たり前! 日本で初めてのソフトふりかけ。

ご飯によくなじむやわらかさ、程よい食感、お米のおいしさを引き立てる絶妙な味つけ…。井上商店の「しそわかめ」と言えば、山口県を代表するご飯のお供の一つ。誕生からおよそ45年、今や全国で愛される存在となりました。実はこの「しそわかめ」、日本で初めての「ソフトふりかけ」と言われています。

井上商店の発祥は尾道。より産地に近い場所を求めて萩市へ。

日本初と言われるソフトふりかけ「しそわかめ」を開発したのは井上商店。明治4年、広島県で主に「いりこちりめん」を扱う卸売業として創業しました。その後、より産地に近い場所で仕事をしたいと、いりこちりめんの一大産地だった萩市へ親戚を頼って移転。当時は山陰だけでなく、九州の産地を歩いていりこちりめんを買い集め、貨物列車を使って北陸や三陸、東北に流通させていたそうです。そんな井上商店が卸売業から食品製造業へと転換を図ったのは今から50年前。同じ食品ならば自分たちで作る食品を売りたいという思いからでした。

萩市で古くから食べられている「刻みわかめ」がヒントに。

「1970年代、萩は観光地として注目されていましたが、萩らしい海産物のお土産がなかったそうで、私の祖父(3代目)と父(4代目)が萩の食文化を伝えられるお土産を作ろうと立ち上がりました」と話すのは、井上商店の5代目で代表取締役社長の井上光治さん。「祖父と父の頭に浮かんだのは、萩市ではおなじみの春先になると軒先に吊るしてあるわかめ。ここら辺は古くから干したわかめを細かく刻んでご飯にまぶして食す風習があり、刻みわかめと呼ばれて愛されてきました。二人は刻みわかめの商品化を閃いたんですね」と開発に至る経緯も教えてくれました。刻みわかめの商品開発は1975年にスタート。しかし、開発中いくつもの障壁があり、完成までに5年もの月日が費やされたそうです。

どうしても譲れなかった「やわらかな食感」。

萩市の刻みわかめは、新芽のわかめを摘み取って軒先に干し、乾燥させて作ります。ただし、パリパリになるまでは乾燥させず、やや水分を含んだやわらかい食感が特徴。「あの独特なやわらかさなくしては、萩の食文化とは言えません」と井上さん。けれども、このやわらかさこそが開発に携わった製造スタッフを苦しめたのだと言います。

「当時、水分を含んだやわらかいふりかけなんてこの世にはなく、なかなか消費者に受け入れてもらえませんでした。さらに水分を含むということは、日持ちしないということ。祖父と父の中では、旅行客が買うお土産だからと常温での販売が絶対条件。当時の工場長の日記には『こんな水分を含んだものを常温で販売するなんて冗談じゃない!』などと残されており、相当な苦労だったとわかります」と井上さん。実際のところ、販売当初は「食感が気持ち悪い」「すぐに傷んだ」などとクレームが入り、販売しても返品、製造しても廃棄といった状況だったそうです。ところが1980年頃に脱酸素剤が市場に出ると状況は一変。「脱酸素剤は密封した袋の中の酸素を減らし、菌の繁殖を防ぐんです。さらに包装フィルムもどんどん進化し、それまで以上に密封性が保たれるように。それで、常温で半年間もたせられるようになったんです。5年という月日を経て、ようやく胸を張って売れる商品になりました」。そこからは山口県内の旅館やホテルの朝食に添えてもらったり、スーパーで試食販売をしたりとPRにも全力で取り組んだそう。「父は東京へ行って、ホテルでご飯を炊き、炊飯器のまま山手線に持ち込んでスーパーを訪ねていたそうです。しかも“わかめ一筋”と書かれた法被を着て。そんな苦労があったからこそ今があるんです」と井上さんは少し誇らしそうに教えてくれました。

作り方は至ってシンプル。だからこそ長く愛される。

「わかめにはほんの少しえぐみがあるので、若い方にも食べてもらえるようシソの香りを加えました。それで“しそわかめ”になったんです」と井上さん。そのしそわかめの製法を簡単に教えてくれました。わかめに砂糖や塩、独自で開発したかつおダシがベースの調味料を加えてよく撹拌*します。しっかり混ざったところで、乾燥機に移し替え、わかめに含まれる水分量を一定にになるまで乾かします。乾いたものに乾燥させた国産の赤シソとシソオイル、ゴマを加え、再び撹拌。まんべんなく混ざったら小袋に詰め、封を閉じて完成とのこと。こうして聞くと、しそわかめの原料や製法は至ってシンプルなもの。井上さんは「しそわかめの魅力は、余計なものを使わず、複雑な工程を経ないまっすぐな味。だからこそ、日本の食卓になじみ、長く愛される。もちろん、一部公開できない製造工程はありますが、こだわるべきところは徹底してこだわっています」と話します。
*撹拌(かくはん)…流体や粉末ないし粒上のの固体原料をかき混ぜること

原料選びに妥協なし。その目で選んだ産地のものしか使わない。

「こだわるべきところ」の一つに原料があります。仕入れ先は国内であれ、国外であれ、井上さんが実際に現地を訪れ、わかめを養殖する海や周りの環境、加工場、保管の際に使用する資材など全てを視察し、納得のいく産地のみとしています。「わかめ以外のシソやゴマなども同じです。お客さんに説明できるものしか扱わない。それが食品メーカーの鉄則と私は思っています。おいしさと同じくらい、またそれ以上に安心安全を追求しなければならない。そのこだわりが井上商店を支えているのです」。もう一つのこだわりは工場の使い分けにあります。井上商店は本社と島根県に工場を構えますが、本社工場では三陸産を、島根工場では韓国産を使っています。その理由は、三陸産のわかめは肉厚で食感がとても強いなど、わかめは産地によって全く性質が異なり、原料のコンタミネーションを防ぐ為だそうです。ちなみに、世界中でわかめを生産(養殖)しているのは、日本と韓国と中国だけで、市場にあるわかめの99%以上が養殖なのだとか。

温かいご飯にふりかけて、おにぎりにまとわせて。

しそわかめは温かいご飯と食べるのが一番。もちろん酢の物やパスタなどいろんなアレンジレシピも美味です。「いつまでも変わらぬ味の…」と思われているかもしれませんが、実はしそわかめは時代とともに少しずつ進化しているそう。なぜなら、その都度お客さんの声を聞き、おいしさや品質の向上に努めているからです。中には、お客さんから寄せられたリクエストによって誕生した商品もあります。それは当初の味を再現した「復刻版しそわかめ1980」です。こちらは山口県内のみの販売ですので、どうしても気になる方はぜひ山口まで足をお運びください。

営業担当が声を上げて生まれたヒット商品「ふぐ煎餅」。

井上商店の「ものづくり」を一言で表現するならば「自由」。お客さんの要望や「こんな商品があったら喜ばれる!」という発想であれば、どの部署からでも発案でき、工場を動かしていいそうです。しそわかめを超える気を誇る「ふぐ煎餅」の発案者も実は営業担当者でした。「『山口県といえばフグですが、お土産に買って帰ろうとすると冷凍しかないし、高い。軽くて安くて、お客様が気軽に買える商品ができないですかねえ…』。きっかけはそんな営業担当者からの声でした。利益のためでなく、他社の真似事でもなく、お客さまの立場に立った提案ですから、すぐに開発に取りかかりました」と井上さんは当時を振り返ります。

試行錯誤の末、たどり着いた辛子マヨネーズ味

難しかったのはフグ本来の淡白な味をいかに活かすか。いろんなフレーバーを試す中、ベースには最も相性がよく、小さな子どもから高齢者まで楽しめるマヨネーズを採用。さらにアクセントに辛子をプラスしてサクッとした食感に仕上げ、2002年に販売を開始しました。「ふぐ煎餅は今や井上商店の大ヒット商品になりました。お客さまに寄り添ったものづくりがいかに大切か改めて実感しています」と井上さん。お客さま第一主義のものづくりは、今後も変わらず受け継がれることでしょう。

食を通じて全国に山口県の素晴らしさを発信したい。

井上商店が目標に掲げるのは、山口県の食文化を全国に発信すること、地元の資源を大切に活用しながら山口県の素晴らしさを発信していくことです。そのために、気を衒う商品ではなく、お客さんに求められ、愛され続ける商品づくりを常に心がけています。「おいでませ山口館」には、しそわかめとふぐ煎餅が常時並んでいます。開発の背景や歴史を思い浮かべながら味わってみてはいかがでしょう?

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