杉本利兵衛本店「白銀」のお話
その魅力は豊かな風味としっかりとした歯ごたえ。
雪のように純白で光沢がある美しいかまぼこ「白銀」は、豊かな風味としっかりとした歯ごたえが魅力。数あるかまぼこの中でも唯一無二の存在として多くの人に愛され、山口県ではおせち料理やお歳暮、贈り物の定番の品になっています。
創業は大正時代。創業者の丁稚奉公から始まった杉本利兵衛本店。
「白銀」を製造するのは、かつて港町として栄えた防府市三田尻にある杉本利兵衛本店。大正8年に創業し、100年以上の歴史をもつ老舗店です。社名にもなっている創業者・杉本利兵衛が、かまぼこの製造・販売を手がけていた「かわとめ」に丁稚奉公して修業を重ね、自ら店を開いたのがその始まりです。
創業以来貫く「かまぼこづくり100年」の精神。
「『白銀』という商品名は、山口県光市出身の政治家・松岡洋右氏による命名です。当社のかまぼこの味と弾力を大変気に入られて何度もお求めいただいており、昭和11年に、雪のように純白で光沢があるからと、白銀という名前を授けてくださったと聞いています」と話してくれたのは、杉本利兵衛本店の4代目で、代表取締役社長を務める杉本洋右さん。創業者のひ孫にあたる人物です。杉本さんは、「昭和初期の戦時中はいい魚が水揚げされず、また当店の工場も軍の関連施設として使われていたため、かまぼこの製造が行えなかったという苦労もあったようですが、そんな苦しい時も、それを乗り越えてからも、決して忘れなかったのは『いい魚でかまぼこを作り、手ごろな価格でお客様に喜んでいただく』ということ。杉本利兵衛本店は、創業以来、一貫し『かまぼこづくり100年』の精神で今日まで歩んできました」と、代々続くかまぼこ作りへの思いを語ってくれました。
山口県の伝統製法「焼き抜き」で、白く艶やかなかまぼこに。
色白で艶やかな白銀の美しさは、「焼き抜き」という製法によって支えられています。焼き抜きとは、練ったすり身を板につけ(成形)、板の下からじっくりと直火で焼き上げる山口県独特の伝統製法のこと。この火の入れ方だからこそ、焼き色をつけず、白く焼き上げられるのです。しかも、杉本利兵衛本店では、長年の技術と経験によって培われた焼き加減をもって、より美しく完成させていると言います。「風味や食感、美しい白い肌を損なわないよう、2段階の火入れで焼いていきます。かける時間は約1時間。まさにじっくりと焼き上げているんです」と杉本さん。ちなみに成形が終わった段階で、熟練のスタッフがより白い肌に仕上げるために一本一本を厳しくチェックし、魚の小さな皮すらも、表面を傷つけないよう人の手で丁寧に取り除くというから驚きです。
素材に使うのは厳選した白身魚。一晩寝かすことでプリプリに。
雪のような白さともう一つ、しっかりとしたプリプリの食感も白銀の魅力です。その食感はいかに引き出されているのでしょうか。「素材に使うのは厳選した白身魚のすり身。かつては三田尻の港で揚がった魚を使うこともあったようですが、現在は最上級のスケソウダラのすり身を使っています。他とは旨み、風味が全く違うんですよ。そのすり身に塩などの調味料を加えてしっかりと練って成形したら、実はすぐには焼かず、一晩寝かせているんです。そうすることでタンパク質の結着を強め、独特の食感を引き出しています」と杉本さん。そう、白銀の歯ごたえは、時間をかけたからこそ得られる特別な食感なのです。
おすすめは刺身。日本酒や焼酎、白ワインとともに
「白銀の豊かな風味、食感を最大限楽しむなら、やっぱりお刺身が一番です」と杉本さんは白銀のおいしい食べ方についても教えてくれました。5ミリ程度に薄く切り、まずは何もつけずに、それから醬油やわさびなどを付けて味わうのがおすすめなのだとか。「日本酒との相性も抜群なので、ぜひ山口県の地酒と一緒に楽しんでもらえたら嬉しいです」とペアリングのアドバイスも。なお、日本酒だけでなく、焼酎や白ワインにもピッタリだそうで、白ワインと合わせる時は、オリーブオイルやブラックペッパーをさっと加え、味の広がりを楽しむのもいいそうです。
杉本利兵衛本店のもう一つの看板商品「秋芳」。
杉本利兵衛本店の看板商品は白銀の他にもう一つ、「秋芳」というかまぼこがあります。「山口県を代表するかまぼこに」との思いから、山口県が誇る日本有数の鍾乳洞「秋芳洞」からその名をいただいたのだとか。
ケーシング詰めによる角の丸っこさ、やわらかさが特徴。
秋芳の特徴は、白銀よりやわらかく、丸みを帯びていること。「秋芳は、練った白身魚をフィルムに詰めてから加工します。ケーシング詰めという製法で、保存性を高めるために完全密封してから高温で蒸しているんです。かまぼこは秋芳しか買わないという根強いファンも多いんですよ」と杉本さんはその違いを教えてくれました。ちなみにケーシング詰めでかまぼこを製造しているのは、今や杉本利兵衛本店ただ1軒のみ。「製造機の大きなトラブルがあった場合や、製造機の更新時期が来た時に続けられるかどうか…」と杉本さん。秋芳は大変貴重なかまぼこなのです。
トマトと一緒にカプレーゼのように楽しむのもおすすめ。
秋芳は10ミリ程度の厚みに切り、白銀同様に刺身で食すのが最上の味わい方。好みに合わせてわさびなどの薬味を加えるのもいいそうです。「こちらはおすすめのアレンジがあるんです」と杉本さん。それは、イタリアのサラダ「カプレーゼ」のモッツァレラチーズを秋芳に置き換えるというもの。スライスしたトマトと秋芳を交互に並べ、オリーブオイルとブラックペッパー、もしくはバジルソースをかければ、驚きのおいしさになるのだとか。ぜひお試しください。
ものづくりは伝統と革新の連続。守りながらも挑戦したい。
杉本さんに杉本利兵衛本店と白銀のこれからを尋ねてみました。すると、「私は創業者からバトンを受け継ぎ、4代目を預かっています。創業当時から守り続けていること、時代とともに変化してきたこと、またこれから先の未来を考えると、もっともっとこの白銀ブランドを磨いていく必要があると強い使命感を持っています」と熱く語ってくれました。杉本さんが目指すのは、白銀をもっともっと知ってもらうこと、もっともっと食べてもらうこと。そして、「海外の人たちにもこのおいしさを届けたい」と大きな夢も抱きます。「輸出のハードルは冷凍保存。しかし、近年は冷凍技術がどんどん進化していますから、白銀のおいしさそのままを海外に届けられる日も近いはず。日本酒が日本の食文化として世界に羽ばたいていったように、いつかは白銀も」。
原点は防府市、山口県。地域への思いは変わらない。
全国や海外を視野に入れる杉本さんですが、白銀の原点である防府市、山口県への思いは変わることがないと言います。「たとえば新商品を出すことになったとして、まずは地域で受け入れられてからじゃないと世に出せません。新しい事業を展開することになったとして、それは地域に貢献できるものでないとと思っています。地域への感謝の気持ちをいつまでも忘れずに、杉本利兵衛本店は精進していきます」。100年以上続くかまぼこ「白銀」には、家族でつないできた伝統の製法、おいしさ、そして地域への愛と感謝が込められています。おいでませ山口館には今日も「白銀」と「秋芳」が並びます。